チエンマイ白骨街道

通称白骨街道と呼ばれている道から、少し入ったバンガード小中学校。
広い敷地の一角にそれはひっそりと建っていた。
日本兵の慰霊碑と鐘堂が。
平成元年、白骨街道を日本の慰問団が通りかかった時、タイ僧が「お前たちは日本人か?なら、何故あの日本兵の白骨遺体を放置する?」と怒りを込めて突き付けられて、初めてその場所に眠る日本兵の存在を知ったとか。
井戸の中に1万8千体の遺骨があったとか。
何故?その時の状況は今は誰にもわからない。
慰霊碑は有志によって建てられ、ひっそりとそこにあった。
恐らく、関係者以外は御参りに行く人もなく、日本人なのに日本人に忘れられ、無念の死を遂げた彼ら。
何故そこで命尽きたのか。
あんなチエンマイから遠く離れたその場所で、1万8千もの日本兵の命が果てた、その事実に信じられないような現在の風景。
我々家族5人のつく鐘が、彼らの鎮魂になるのか。
慰霊碑の前で線香を焚き、般若心経をあげると涙が溢れた。
ああ、きっと喜んでくれている。
どんより曇った空を見上げると、曇り空の一角が突然開けて陽が差し込んだ。
数羽の白鳩が慰霊碑の上に静かに止まった。
御参りさせていただいたことは、偶然ではない。
きっと導かれていたのかもしれない。
恐らく、もう2度とは来ることのないその場所を、私は行けたものとして語っていこう。