面白い人々

面白い人に会った。
有珠に行った時、何度か寄って魚を買ったことがある店に、今回も帰りがけに寄ってみた。
いつも威勢がよくて、おしゃべり上手で愛想が良くて、気前がいい彼女が店にいないので聞いた。「いつもの賑やかな母さんは?」「ああ、隣りの店にいるよ」隣りの土産物の店に行くといきなり彼女が言った。「あらあ、いいわねえ、その下駄。私、下駄欲しくて捜してるけど、室蘭まで捜しに行ったけど、どこにもないのさ。仕方なく、サンダル履いてるけど、指が痛くてさ。下駄はいいよねえ。いいなあ、どこに売ってる?」
そんな話をしていたのだけど、どこからそんな話に転換していったのだろう?
彼女の離婚話になり、最初は「また、冗談言って」と言っていたけど、どうも本当らしく、そばにいた社長が「ほんとさ。隣りにいたやつが、この人のつい先日まで亭主だったのさ。面白いべ。全く嘘みたいなはなしださ。でも、離婚して名前も変わり、今、名刺も新しいの作ってんだ。昨日もラジオに出て、この話バレたもんな。この人、人気モンなんだわ。テレビにも出るわ、ラジオにも出るは、ほら、雑誌にも出てるべ・・・・」よく見れば、壁一面のお客さんとの写真に、取材の写真、あらー、本当に人気者なんだね。
「いやあ、40年連れ添ってこのたび独り身になりまして・・・・」「何があったんでしょうか?」「うん、もうそろそろ楽しい人生にしたくてさ。いやあ、何でお客さんにこんなこと話してるんでしょう?この話聞いたお客さん1番目ーーー。離婚したって言っても、家隣り同士なのさ。ほら、あそこにいる婆さん、あの婆さんとは14年間一緒に暮らしました。90歳になるけど、今だに一人で車運転して、札幌の娘の所に行くんだよ。先日も、車やさんが新車持ってきたら、乗ってみもしないで、グルット車の周り歩いて「これ頂戴」って私の目の前を現金50万円が行ききしたさ。見て御覧。90にはみえないから。ありゃあ、ゾンビだよ」
40年連れ添ってからの離婚、同じ職場、隣り同士の家、お互いに母親健在、一体離婚に至るにはどんなドラマがあったのか。
これからは楽しく行きたい!そう言った彼女の気持ちは、充分わかるけど、凄い決断だなあ。
最近私の周りでも、熟年離婚がちらほら。気持ちはわかるけど、今更この状況を変えるって、すごいエネルギーを要するだろうに。
下駄を見つけたら、買っておく約束をしたので、また今度行った時、話を聞こうかな。
でも、聞かなくても何となくわかるから、ま、いいか。
本当に彼女の話は面白かった。きっと天性の話術だろうね。
海の直ぐ前で仕事をし、住んでいるのだから、あんなに明るくあっけらかんとした生き方ができるのかもしれないなあ。


3日間有珠にいた。じっとしていても汗が噴き出てくるのに、連れ合いは、来たからにはきっちり仕事をしなければならん、とでもいうように一人で黙々と草刈りをした。
私は、か弱いので、倒れたら困るし、ひたすら家仕事し、タオルを冷やしたり、飲み物作ったり、着替えを用意し、洗濯したりともっぱら内助の功に徹した。
途中隣りの婆ちゃんと、世間話に興じたり、チソ味噌作ったり、チソジュース作ったり、案外働いたもんね。
昼ごはんの後、連れ合いは「こうあつくちゃ、仕事にならん」と2時間いびきをかいて昼寝した。
そう、こんな暑さの中、無理して働かなくてもいいんじゃない?どっかに行こうよ、と口には出さず、心で訴えかけたけど、通じなかったみたい。「さ、やっちゃうか」むくっと起きて炎天下の畑に果敢に出ていった。ま、いいか、緑はきれいだし、鳥や虫が鳴いてるし、夜はかえるの大合唱が子守唄だし、人の姿はないし、静かで美味しい空気のここにいられるだけで、仕合せなのだから。
コンビニさえないこの小さな町、10分も歩くと素晴らしい海へ、入江がいくつもあり、とても美しい。太陽がジュっといってこの海に沈んでいく様は、本当に美しい。
ここを知ってから、私の人生もかなり豊かになった気がする。
ただ草刈りの為にやってくるのだけど、それでもあまりある色んなものを、ここから戴いている。
3日間、暑さで体はしんどかったけど、充分鋭気を養ってきたので、さあ、今週も顔晴るぞーー。