大漁旗

所は小樽市高島町の厩埠頭、祝津方面から来たらしい漁船が、次から次へと大漁旗をたなびかせて目の前を通って、小樽港へと入って行った。全部で6艘、目にも鮮やかな大漁旗に目を奪われた。
大漁だったのか?「お祭りでないか?」当たりーー。
しばらくして、太鼓の音が賑やかに聞こえ、あの6艘の船が笛や太鼓の大音響とともに小樽の港を一周し出した。
厩からバスで色内町にさしかかると、沢山のお祭りの旗が見える。バスの乗客のお婆ちゃんが「色内神社のお祭りだよ」と誰かに言っているのが聞こえた。
港町のお祭りって何て賑やかなのだろう。
同じ小樽でも、天狗山の麓の最上町で育った私は、こんな光景は初めてだった。
小樽は小さな街の割に、神社が多い。だから初夏には毎週のようにどこかでお祭りをやっている。色内町の角に、今は小さなビルの建っているその場所に、昔、小樽漁業組合があった。
その2階に組合長だったお爺ちゃんとお婆ちゃんが住んでいた。
なんとなく覚えている2階の部屋の様子、当時は一人っ子だった私を、お爺ちゃんもお婆ちゃんも可愛がってくれたっけ。あれから60年、今私は6歳のあの当時と同じ位の年齢の孫を連れてあの懐かしい場所を通りすぎている。

元へ、厩埠頭でたこ坊主みたいなお兄ちゃんが「タコだーーーーーーー」と大騒ぎしている。
海を見ると信じられないほどの大きなたこが釣りざおに引っかかっている。
チカ釣り用の竿にかかったタコは、程なく海の底に逃げ去った。
「いやあー、タコつれたりしてって、今言ってたばかりだったからびっくりしたなあ」とお兄ちゃんは何度も言った。
「タコ坊主みたいなお兄ちゃんの竿に、タコがひっかかったねえ」と6歳児と大笑いした。
なんでまた大勢釣り人がいるのに、タコ坊主みたいな兄ちゃんにタコがかかったのだろう。本当に釣れたらもっと面白かったかも。
兄ちゃんのスエットズボンから、まるでタコみたいに真っ赤なパンツが見えていたっけ。

自然豊かな小樽で育ったせいか、時々、海や山が恋しくなる。
景色の見えない所に住んでいるので、尚更恋しくなる時がある。
特に海は大好きだ。
だから、今日のように海のそばで過ごせると生き返ったようになる。
極めつけは、帰りがけに見た夕日の美しさ。
小樽の港が茜に染まっていた。
丸山の向こうに真っ赤なお日様がさよならをした。