キュキュ

凍れる日、雪がキュキュとなる。雪が降らないのに、歩くとキュキュと音がしてその音に遠い昔の小樽の子どものころを思い出した。あの最上町の坂道、シバレル日に、母のエンジ色のかく巻きの中に入って歩いた時の、あの状況がふと蘇った。
風呂屋さんの帰り道、濡れた髪の毛が、外に出たとたん瞬時に凍りついたっけ。
朝がなかなかやってこなくて、真っ暗やみの中、向かいのおばさんが玄関の雪をどけてくれて、玄関をドンドン叩いて「朝だよー」と教えてくれた大雪の日、一晩で玄関がスッポリ雪に覆われたっけ。
学校帰りに、休んだ友達の家に届け物をしたあの日、腰まで雪に埋もれて、やっと辿り着いた時、全身ゆきまみれだったっけ。外で遊ぶ時は、母の編んだ手袋を2枚も重ねて履いても、手はすぐにかじかんだ。家の石炭ストーブで濡れた手をかわかすと、ジンジンといた痒くなったっけ。毛糸の手袋には、雪が玉になってついていたなあ。
それを食べたっけ。うーん、色々思いだしてきたぞ。
私の住んでいた小樽の最上町は、天狗山の麓なので、小樽の中でも雪が多かった。
家の窓から天狗山のジャンプ場が見えて、ラジオの放送を聞きながら、飛んでくるジャンプを見ていたっけ。お婆ちゃんは、妹のスキーについていって、リフトの下を歩いてリフトから落ちた物を拾って歩いていた。あれって、何をひろっていたんだろう?そうだ、小銭だ。リフトから小銭を落とす人がいて、お婆ちゃんはそれを拾っていたんだ、きっと。お金にこまっていたわけでもなかったのになあ。天狗山でスキーをするときは、おにぎりを風呂敷に包んで、それを腰に巻いていたっけ。
あの天狗山のてっぺんから降りるとき、相当の勇気がいたっけ。まるで海に飛び込むような急斜面、よくあんなとこ滑ったもんだわ。
スキー場から見る小樽の海、なんて素敵な景色だったろう。
カンダハンというスキーは今ではもうないけど、よくあんなスキーで滑れたもんだ。
楽しくて懐かしい小樽の冬の情景が、次から次と蘇ってきた札幌の寒い冬の1日。