旅パート2

鶴見に住んでいた2年間、ふすま一枚隔てた隣の部屋に住んでいたまりちゃんとは、二十歳の頃別れたきり会っては居ない。いきなり「淀江にいるの、明日一目でもいいから会いに行きたい」と言ったら絶句したまりちゃん。車中泊と言ったら「なんでそんな可哀想な旅してるん?」ウーン、かわいそうってこともないんだけど・・・。
米子から境港、出雲大社と周り、奥出雲へ。ナビを頼りに紆余曲折乗り越え山奥の奥出雲へ着いた時は、7時を回っていた。
突然現れた豪華な温泉の建物、彼女の家はすぐ隣と聞いていたから、まずは温泉の玄関から電話すると、「その坂降りておいで、今家出るから」古いけど立派な朱色の瓦屋根の家から出てきたまりちゃん発見!「いたーー」43年ぶりの再会は「あー、変わってない」とお互いにあのまだ純情だった頃の面影をほんの少し残して、それなりに年を重ねた姿をしげしげと見つめあった。
同居しているお母さんが「まあ、よくおいでなったねえ。あなたの事はまり子から聞いて知っていますよ。あなたのお母さんは実践女子を出ておいでだったけど、私は共立で、お母さんとは格が違いますよ。あなたのお母さんはすごいです」など初対面の私に、いきなり母の出身の大学のことなど言った。85歳になるお母さんは、白い玉のネックレスをしてきちんとお化粧もして、話すこともしっかりした品の良いお方。
よくおいでなったと何度も言われ手を握って歓待してくださったお母さんは、初めてお会いしたのに、何故か懐かしい気がして、思わず涙ぐんでしまった。
「今夜は別宅に泊まって」と強烈に誘われ、目の前にある別宅に案内される。本宅の前に建つ別宅は、息子さんが結婚したら住まわせるつもりだけど、まだ結婚しないので、もっぱらお客さん用の別宅なのだと。
いやいや、持ち山から切り倒した杉で出来た立派な別宅。
ご主人と5人で坂の上の温泉まで歩いて移動し、43年ぶりの再会を祝し、お料理をご馳走になる。
昔々の頃の事を、マリちゃんは次から次へとよく覚えている。私の持っていた緑のチェックのコートを借りた事、いつも出かける時は洋服を借りていた、一緒に銭湯にいって垢こすりをしたこと、鶴見の蕎麦屋でアルバイトをしたこと、横浜の山下公園の合コンに行ってステキな男の子に会ったこと、いやいや次から次へと忘れかけていた青春の思い出が彼女の口から出て、私もそうそう、そうだったと思い出した。
お互いに色々山あり谷ありの人生を経てきたけど、43年の月日は吹っ飛んで話に花が咲いた。懐かしくも楽しい夜だった。